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AIを活用して業務の自動化と最適化を実現するシステムを開発 −AIがトンネルの工事計画を立案し掘進制御を最適化−

カテゴリ:プレスリリース|2021年11月19日掲載


発表のポイント

〇 共進化的組合せ最適化の計算技術とAIシステムを開発しトンネル工事の建設業務に応用
〇 AIがシールドトンネルの施工計画を自動に立案しマシン制御を最適化
〇 都市部に放水路幹線(雨水管)を設置する地下トンネルの建設工事(兵庫県)に導入してAIによるシールド機の自動運転を開始

概要

名古屋工業大学大学院工学研究科情報工学専攻の加藤昇平教授(NITech AI研究センター長)らの研究グループは、このほど、生命進化に着想を得た計算手順で社会・産業のあらゆる業務を最適化する「共進化的組合せ最適化」の計算技術とAIシステムを開発しました。この技術を、清水建設株式会社の建設事業のひとつであるシールドトンネル工事(注1)の施工計画立案に応用し「施工計画支援AI」を開発しました。同社が進める次世代型トンネル構築システムであるAI施工合理化システムの構成要素として導入され、東京都内の道路トンネルの建設工事に適用し、シミュレーションによってシステムの有効性が検証されました。図1は、同工事における3次元的な曲線を描く最も複雑なカーブの70リング(約80m)の区間のセグメント割付(注2)とマシン掘進計画を施工計画支援AIが出力した様子です。実際の工事現場をモデル化してアルゴリズムの検討を続け、延長414m・セグメント数242リングの道路工事トンネルモデルでは、制約条件を満たす掘進計画をわずか25分で導き出しました。このシステムを清水建設株式会社の工事現場である放水路幹線建設工事(兵庫県)に導入し、初期掘進完了後の2022年3月からAIによるシールド機の自動運転が開始されます。

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図 1 施工計画支援AIによる掘進計画出力画面


今後、清水建設株式会社との共同研究では、施工計画支援AIを、同社が開発する掘進操作支援AIと統合することで次世代型トンネル構築システムを完成させ、自動測量システムとデータを連動させることでシールド工事の更なる生産性向上を図り、シールド施工の自動化を目指す計画です。また、加藤教授らの研究グループは、共進化的組合せ最適化の計算技術を、広く他分野に水平展開し、例えば、物流業務や、製造生産計画・人員配置の最適化に適用する社会実装の研究開発を進めます。

研究の背景 

工事・生産計画や物流・配送、人員配置など、社会や産業におけるあらゆる業務を最適化する実問題においては、最適化の目的を表現する変動要素の数(次元数)が極めて大きく、連続的な変動要素と離散的な変動要素が混在し、そもそも満たすべき要件(制約)が複雑であることがしばしばです。このような問題に対して、これまでの研究では、離散変数を扱う組合せ最適化、満たすべき要件を考慮した制約付最適化、次元数の大きな問題を扱う大規模最適化について、それぞれ独立で研究した事例は多いものの、これらを複合的に扱う問題についてはほとんど調査されていませんでした。

研究の内容・成果

本研究では、粒子群最適化(PSO)(注3)の計算アルゴリズムを、連続変数のみならず離散変数も取り扱えるように改良し、その上で複数の制約を考慮しつつ、最適化の対象を問題分割して局所最適化と協調を高度に融合した共進化的組合せ最適化(εCCICPSO)の計算システムとプログラムを発明しました。この発明を清水建設株式会社の建設事業のひとつであるシールドトンネル工事の施工計画立案に応用し「施工計画支援AI」を開発しました。

施工計画支援AIシステム シールド掘進をゲームに見立て、生命進化に着想を得た計算手順で最適な施工プランを生成するAIシミュレーションプログラムです。与えられた計画線形に対して、AIが自ら設定した曲線部でのシールド機の運転制御方法、セグメントの割り付けといった試行条件に基づき模擬掘進を行い、その結果を、トンネル線形に対する掘進軌跡の誤差や、シールド機とセグメント・掘削地山との干渉度合等を評価指標として得点化します。試行中に掘進誤差の許容値を上回った場合や、シールド機とセグメントが干渉する可能性が出てきた場合には、その時点で試行終了となり、試行条件を再設定して新たなシミュレーションを実行します。AIは膨大な試行を重ねる中で、どのような条件を選択すれば高得点が獲得できるかを進化・学習していき、最終的にそれ以上は上積みができない最高得点を示したプランを解とします。具体的には、シールドトンネル工事の施工計画を、セグメント割付、シールド機のジャッキ制御(水平・垂直)および中折れ制御(水平・垂直)の5つに問題分割し、相互に強調しながら個別に変動要素を探索することでて全体を最適化して行きます(図2)。

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図 2 シールドトンネル施工計画支援AIの計算概要

 

東京都内の道路トンネルの現場に施工計画支援AIを適用し機能を実証しました。施工計画支援AIは、3次元的な曲線を描く最も複雑な線形区間の70リング・約80mの区間について、セグメントの割り付け方法と、シールド機の胴体後部とセグメントとの間に45㎜程度の適度なクリアランスを設けた掘進計画をわずか15分で立案できました(図1)。これは、熟練のシールド技術者の能力をはるかにしのぐ性能です。従来、複雑な線形区間の場合、70リング分の計画をしようとすると1週間程度必要で、クリアランスの予測までは不可能でした。また、該当区間の掘削土量については、当初計画による施工では9622.3㎥だったものが、本システムによる最適化シミュレーションにより9469.2㎥へ2%削減できることが試算されました。建設残土の削減だけではなく、余掘りを極力抑えることで地山とセグメント間の隙間を低減することにつながるため、施工後のトンネルの安全性も向上します。

今後の展望

清水建設株式会社との共同研究では、施工計画支援AIを、同社が開発する掘進操作支援AIと統合することで次世代型トンネル構築システムを完成させ、自動測量システムとデータを連動させることでシールド工事の更なる生産性向上を図り、シールド施工の自動化を目指す計画です。加えて、共進化的組合せ最適化の計算技術を、広く他分野に水平展開し、例えば、物流業務や、製造生産計画・人員配置の最適化に適用する社会実装の研究開発を進めます。

用語解説

(注1)シールド工法:軟弱地盤や都市部の地下空間を掘削するトンネル工法。「シールド」とよばれる筒でトンネル壁面を一時的に支え、切羽を掘削しながら逐次シールドを前進させつつシールドの後方に壁面を構築する。

(注2)セグメント:トンネルの壁面を構成する円弧状のブロック(鉄筋コンクリート、鋼製、鋳鉄製など)。あらかじめ工場で製作されてから施工現場へ運搬され、トンネル本体がトンネル断面の1周分(1リング)ずつ構築される。鉄道や道路のトンネルでは、1リングが510個程度のセグメントで構成され、セグメントの幅(トンネル縦断方向の長さ)は0.31.8m程度である。

(注3)粒子群最適化(PSO):群知能の計算アルゴリズムのひとつ。多次元空間において位置と速度を持つ粒子群でモデル化される。群れの中の粒子は良い位置について情報交換し、自身の位置と速度を調整しながら、空間内を飛び回り最善な位置を探す。

論文情報

論文題目:Cooperative Coevolutionary PSO Based Segment Assignment in Shield Tunneling
著者名:Koya Ihara, Shohei Kato, Hiroichi Masuda, Yasuyuki Singu
掲載誌名:人工知能国際会議IJCAI-2020ワークショップ Heuristic Search in Industry (HIS2020)
公表日:2021年1月
URL:https://www.semanticscholar.org/paper/Cooperative-Coevolutionary-PSO-Based-Segment-in-Ihara-Kato/4d4ca6421e7154f2b07350d0a6ac5a0e3702f539

国際特許出願

発明の名称:共進化的組合せ最適化システムおよびプログラム
発明人:加藤昇平、伊原滉也
出願人:国立大学法人名古屋工業大学
出願日:2020年5月21日
出願番号:PCT/JP2020/20170 (日本:特願2021-520857)

関連リンク

清水建設株式会社 プレスリリース

加藤昇平研究室

お問い合わせ先

研究に関すること

名古屋工業大学 大学院工学研究科情報工学専攻/情報科学フロンティア研究院
教授 NITech AI研究センター長 加藤 昇平
Tel:052-735-5625
E-mail:shohey[at]nitech.ac.jp

広報に関すること

名古屋工業大学 企画広報課
Tel: 052-735-5647
E-mail: pr[at]adm.nitech.ac.jp

*それぞれ[at]を@に置換してください。


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