国立大学法人名古屋工業大学

文字サイズ
検索

News&Topics一覧

ホーム > News&Topics一覧 > プレスリリース:多種多数の医療機器管理をIoT化し、病院のDX化を推進 ~名大病院の外科系集中治療部門と新城市民病院の一般病棟にて試験運用を開始~

多種多数の医療機器管理をIoT化し、病院のDX化を推進 ~名大病院の外科系集中治療部門と新城市民病院の一般病棟にて試験運用を開始~

カテゴリ:プレスリリース|2022年03月18日掲載


名古屋大学
名古屋工業大学

 

 名古屋大学医学部附属病院と名古屋工業大学は、総務省の戦略的情報通信研究開発推進事業(SCOPE)・電波有効利用促進型(先進的電波有効利用型)研究にて、医療機器の位置追跡と稼働状況を可視化するデバイスを開発し、同病院の外科系集中治療室(SICU)と新城市民病院の一般病棟で、2022年2月1日から人工呼吸器や血行動体監視装置など生命維持装置に接続して試験運用を開始しました。
 従来スタンドアロンで利用されてきた医療機器は、小型化、可搬化、高機能化が進み、持ち運びが可能な中型医療機器が多種・多数院内で稼働し、新型や旧型を含めその運用管理は臨床工学技士が全て担い、動作点検、定期保守、予約管理、感染予防対策など多くは手作業にて実施されています。
 医療機器の高度化やデジタル化に伴い、アラーム対応やフィルター交換やベッドサイドでの長時間利用に対し、臨床工学技士の業務量は増加しています。一方、日常的な動作確認・操作は臨床工学技士だけではなく、医師、技師、看護職員等に委ねられるため、多種の医療機器が使用される中、電源の入れ忘れ、確認不足などのインシデントもゼロにはならないのが現状です。
 薬機法にて医療機器には改造や追加や外部接続に規制が設けられていることから、各医療機器メーカは自社製品以外の製品も対象となる、医療機器運用管理のネットワーク化に消極的です。
 医療機器管理にIoT化を活用すると、院内の全ての医療機器の所在と稼働状況を可視化でき、アプリケーションを介することで臨床工学技士の業務支援と、医療機器の効果的・効率的運用が可能となります。新型コロナウイルスの第5波では、感染の急拡大と高い重症化率で、その治療に人工呼吸器や体外式膜型人工肺(ECMO)が必要でしたが、それを稼働させる臨床工学技士の不足が社会課題として明らかになりました。
 新たに開発したIoTデバイスは、電源コードと壁コンセントの間に接続するのみで医療機器の位置情報と稼働情報を収集し通知します。電子カルテなどに使用されている既設のネットワークを介さず、LPWA(Low Power Wide Area)を使い、これまで解決が難しかった課題を容易に解決できるようにしたことから、複数の他大学病院も強い興味を示しています。
 IoT化するデバイスは、4口タイプと1口タイプを予定しており、病院規模やインフラ環境に応じてシステム構築費用が定まります。病院全体を対象にするケースや集中治療部門のみを対象とするケースなど臨床現場のニーズに柔軟に応じる予定です。
 なお、本研究開発は総務省SCOPE(受付番号JP215006007)の委託を受けたものです。

 

開発したデバイス.jpg

 デバイス内部構造.jpg

 

開発したデバイスの外観             デバイスの内部構造     

 

人工呼吸器にデバイスを接続.jpg

人工呼吸器にデバイスを接続

臨床工学技士への効果

 臨床工学技士が遠隔から各医療機器の稼働状況(使われている、使われていない、充電中)と所在場所が把握できることで、業務効率が向上します。使われていない場合回収し、他の患者に使用すれば医療機器の稼働率向上も可能となります。手間が掛かる厚生労働省への医療機器稼働状況報告も、簡単な操作で資料が作成できます。
 新型コロナウイルスによる隔離患者への医療機器使用に対しても、遠隔から医療機器の動作状況が把握できるため最低限の安全性を確保する事ができます。特に、人工呼吸器に用いる加湿器の電源の入れ忘れと切り忘れは多くの医療機関で問題となっており、この課題解決にも有効です。
 医師の働き方改革のタスク分散の推進にて、今後、臨床工学技士の役割拡大やチーム医療が強く求められ、医療機器も対象とした病院のDX化は不可欠です。

研究開発体制

 総務省の競争的資金である、戦略的情報通信研究開発推進事業(SCOPE)・電波有効利用促進型(先進的電波有効利用型)の研究開発にて、2021年5月から2年間の計画で、名古屋大学医学部附属病院メディカルITセンターの大山慎太郎特任助教、名古屋工業大学大学院工学研究科の大塚孝信准教授、株式会社ケアコム(代表取締役 池川充洋)が共同で、医療機関で使用されている医療機器の所在と稼働状況の遠隔取得ができるデバイスの研究開発を進めています。
 名古屋大学医学部附属病院の外科系集中治療部門(SICU)と新城市民病院の一般病棟にて、2022年2月1日から試験運用を開始しました。さらに、他3病院と配備について協議中であり、今後取り組みを拡大する予定です。

医療機器を取り巻く課題

 病院には、治療や診断に用いる超音波診断装置や人工呼吸器といった、持ち運びが可能な中型医療機器が多種多数あり、共に小型化、可搬化、高機能化が進み、より安全に、より便利に利用できるよう日々改良が進んでいます。しかし、高い単価と数の多さから医療機器の購入価格・維持保守費用が年々増大しており、稼働率の向上が強く求められています。
 医療機器を維持管理する専門職である臨床工学技士の配置人数が少ない一方、このような背景による役割拡大と業務量の増加から、特に大規模な特定機能病院において医療機器の手作業による管理が難しい状況に陥っています。
 また、医療機器には耐用期間も考慮した運用が要求され、計画的な機器更新が必要となります。新旧の機器が混在する中で、操作性や安全機能は異なるため、患者の重症度や臨床現場の運用習慣も考慮しつつ、安全に医療機器を運用する必要があります。
 このような課題は医療機器をネットワーク接続すれば解決しますが、医療機器は薬事承認を得て流通・販売されており、市販後安全管理が医療機器販売製造業の企業に求められることから、ネットワーク接続機能といえども手間のかかる医療機器承認手続きを経る必要があります。医療機器への改編や改造、他装置接続などは厳しく制限されており、医療機器自体に自由に通信機能を付けることはできません。従って、医療機器個々の稼働管理は可能でも、施設全体で医療機器の稼働管理は難しく、また、所在管理を手作業で厳密に行うことは運用上の負担増となることから、予約管理や返却管理や定期的な保守管理のみに留まっていました。

医療機器運用上の課題

 医療機器をいつ、どこで、何時間使用したのか把握ができれば、医療費算定漏れ防止や定期的な保守管理に役立てることができます。
 例えば、術後に必要な生命維持に関わる医療機器は、手術の開始に伴い準備されリカバリ室などで直ぐに使えるよう準備されています。準備状態で動作はしていなくても患者の生命を左右することから、医療機器は稼働状態と認識すべきとの考え方もあり、稼働状況の詳細な管理が求められます。
 これらを考慮しながら必要な台数と稼働率の向上を行うためには、より多くの人的リソースが必要となることから、安全を第一として多めに医療機器が購入配置されているのが現状です。医療機器のIoT化にて、医療機器の位置・稼働情報を一括して管理することにより、臨床工学技士の負担軽減を目指すとともに、医療機器の最適な配置・台数の検討が可能になります。

デバイスの特徴

 本デバイスは、医療機器と壁コンセントの間に接続して利用するものです。そのため、旧型や新型などに関係なく全ての機種に適用することができます。この方法は、薬機法に抵触せず、医療機器の販売ルートではなく一般品の販売ルートで取り扱うことができます。
 形状は電源タップを一回り大きくした4口タイプと1口タイプを開発しており、例えば人工呼吸器には加湿器も装着されていることから4口タイプを使用することで、人工呼吸器と加湿器のそれぞれの稼働状況を把握することができます。
 また、点滴の液漏れや出血によるデバイス故障を防ぐために各医療機器への取り付けを考慮し、装着方法を工夫できるマウント機構も用意しています。医療機器のレールへの装着や円柱ポール類への装着にも対応でき、可搬式医療機器に容易に固定することが可能です。

位置情報による医療機器の管理

 本デバイスは、Wi-FiやBluetoothのアクセスポイントなどの病院内で利用されている既存の固定電波発信源の位置を事前調査し、これらから発出される電波強度をモニタリングすることで位置測定を行います。この手法による位置精度は、半径5m程度ですが、さらに高精度な位置情報を必要とする場合は、Bluetooth Low Energyビーコンを追加設置することで可能となります。
 また蓄電池(バッテリー)が内蔵されており、コンセントが接続されていない状況下においても位置情報の取得が可能です。
 数が少ない超音波診断装置や人工呼吸器を含め、病院の全ての医療機器に対して位置情報と稼働状況を本システムによってリアルタイムで把握できることから、医療機器の有効活用と機会損失の低減が目指すことができます。また、現状の過剰な医療機器予約(予約しても使用しない)を必要最低限の予約期間(3日間の予約で1日しか使わない)に改めることで、医療機器の有効活用が期待されます。

ソリューションの概要

ソリューションの概要.jpg

本ソリューションによる可視化事例

1.jpg

2'.jpg

3.jpg

4.jpg

お問い合わせ先

研究に関すること

名古屋大学医学部附属病院
メディカルITセンター 特任助教 大山 慎太郎
TEL:052-744-1977
E-mail:oyama[at]med.nagoya-u.ac.jp

名古屋工業大学大学院工学研究科 
工学専攻情報工学系プログラム 准教授 大塚 孝信
TEL:052-735-5287
E-mail:otsuka.takanobu[at]nitech.ac.jp

広報に関すること

名古屋大学医学部・医学系研究科 総務課総務係
TEL:052-744-2228 FAX:052-744-2785
E-mail:iga-sous[at]adm.nagoya-u.ac.jp

名古屋工業大学 企画広報課
TEL:052-735-5647 FAX:052-735-5009
E-mail:pr[at]adm.nitech.ac.jp

*それぞれ[at]を@に置換してください。


ページトップへ