熱中症搬送者数予測の対象地域を47都道府県に拡大 ~1週間先までの日ごとの予測をWeb公開~
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カテゴリ:プレスリリース|2025年5月28日掲載
ポイント
〇 2024年から、8都道府県における熱中症搬送者数をWebサイトで公開
〇 対象地域を全国47都道府県に拡大し、予測人数を公開
〇 当日の気温だけではなく、過去数日の気象条件から暑さ慣れの程度を推定・考慮
〇 人口集中地域ほど高い予測精度を発揮
概要
名古屋工業大学の平田晃正教授(電気・機械工学類、先端医用物理・情報工学研究センター長)、小寺紗千子准教授(電気・機械工学類)、三輪将大氏(物理工学科)、村川卓也氏(情報工学科)、浅野いぶき氏(工学専攻電気電子プログラム)らの研究グループでは、これまでに気象データを用いた熱中症搬送者数予測技術を開発してきました1,2,3。2024年度に8都道府県(東京、大阪、愛知、福岡、宮城、新潟、広島、北海道)で試行運用を開始4しましたが、このたび、熱中症搬送者数の予測値を提供するWebコンテンツの対象地域を全国47都道府県に拡大します。

開発した予測技術は、対象都道府県における熱中症による救急搬送者数の予測値を、1週間先まで日ごとにリアルタイムで提供し、熱中症リスクの低減に向けた啓発活動の促進や、救急搬送需要の事前把握などへの応用が期待されます。本研究グループは、今後も、気象条件や地域特性に応じた予測精度のさらなる向上に向けて、各地域との連携を深めながら技術開発を継続します。
研究の背景
地球温暖化の進行に伴い、熱中症患者の増加が懸念されており、この問題には日本国内のみならず、アメリカやヨーロッパでも大きな関心が寄せられています。特に、子どもや高齢者は熱中症の高リスク群とされており、対策の強化が求められています。本研究グループでは、これまでに数値人体モデルを用いた体内温度上昇および発汗量を推定可能な解析手法を開発してきました。さらに、熱中症による救急搬送者に関するビッグデータと組み合わせることで、気象データを入力値とした大規模シミュレーションにより一日の発汗量を推定し、それを用いた熱中症搬送者数を推定する予測式を提案してきました。また、同様のモデル式を改良し、入手が容易な「一日平均気温」を用いた場合でも、一定の精度で熱中症搬送者数を予測できることを発表1しています。これらの技術は、名古屋市消防局との共同研究において、病院や小中学校などへの情報提供、救急隊の効率的な運用支援、さらに熱中症予防の啓発活動などにおいて実用化されています。
熱中症搬送者数予測式について
Webコンテンツで用いている熱中症搬送者数予測式は、2013年~2019年および2024年の6月~9月における気象データと、約14万件の熱中症搬送者データを分析して開発した非線形回帰モデル式1です。本モデルでは、熱中症の発症機序の違いに着目し、熱中症搬送者を屋内(居住地)での発症と屋外(居住地外)での発症に区分して予測を行っています。また、これまでの研究2で得られた、高齢者では連続する3日間の気象条件によって熱中症リスクが増大すること、および暑熱順化の影響により初夏と晩夏における熱中症リスクが異なることも考慮しています。さらに、コロナ禍の影響が少ない2024年のデータを追加することで、より正確なリスク評価を実現しました。また、週間天気予報を利用することで、各都道府県における1週間先までの熱中症搬送者数の予測提供ができます。ただし、本推定は県庁所在地の気象条件を用いて概算しているため、都市部に位置する県では精度が高い一方で、地方部との間に推定精度の差が見られました。東京および大阪における人口100万人あたりの推計誤差は、それぞれ関東地方および関西地方の他の県と比べて約半分となっています1。評価の詳細は、論文[1](2025年4月発表)をご参照ください。
関連主要論文
1. T Matsuura, S Kodera, A Hirata, "Predicting Heat-related Morbidity in Japan through Integrated Meteorological and Behavioral Factors," Environmental Challenges, 101106, Apr. 2025
2. A Takada, S Kodera, K Suzuki, M Nemoto, A Hirata, "Estimation of the number of heat illness patients in eight metropolitan prefectures of Japan: Correlation with ambient temperature and computed thermophysiological responses," Frontiers in Public Health 11, 1061135, 2023.
3. S Kodera, T Nishimura, EA Rashed, K Hasegawa, I Takeuchi, R Egawa, A. Hirata, "Estimation of heat-related morbidity from weather data: A computational study in three prefectures of Japan over 2013-2018," Environment international 130, 104907, 2019.
4. 「日ごとの熱中症搬送者数予測をWeb公開します ~8都道府県における熱中症搬送者数を予測~」(2024年07月9日)
お問い合わせ先
研究に関すること
名古屋工業大学 電気・機械工学類 教授
先端医用物理・情報工学研究センター センター長
平田晃正
TEL: 052-735-7916
E-mail: ahirata[at]nitech.ac.jp
広報に関すること
名古屋工業大学 企画広報課
TEL: 052-735-5647
E-mail: pr[at]adm.nitech.ac.jp
*[at]を@に置換してください。
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