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準リアルタイムで熱中症リスクを評価する技術の開発 ~個人に応じた熱中症対策を提案する、新たな情報~

カテゴリ:ニュース|2015年07月23日掲載


名古屋工業大学 平田晃正准教授、ラークソ・イルッカ特任准教授、西尾渉(大学院情報工学専攻1年)、東北大学サイバーサイエンスセンター、一般財団法人日本気象協会の共同研究グループは、1)乳幼児や高齢者などの個人特性を考慮した熱中症リスク評価のための複合物理・システムバイオロジー統合シミュレーション技術をスーパーコンピュータに効率的に実装、高速化、2)気象予報データと融合させることによる、個人特性を考慮した3時間後の熱中症のリスクを10分で評価する技術の開発に成功しました。今後予定されている大規模なスポーツ大会や屋外イベント等において、個人属性を考慮した適切な熱中症リスク評価技術を活用することで、今まで以上に場面に応じた発症数の低減に貢献することが期待できます。

【これまでの研究・開発の経緯】
(1) 平田准教授らの研究は、1辺2ミリメートルの微小立法体から構成され(総計約800万点)、50以上の体内組織を考慮した温熱人体モデルを構築し、熱中症のリスク要因である体内深部温度(以下、体温)上昇および発汗量を解析してきました。具体的には、①太陽光の吸収エネルギー、②環境温度というマルチフィジックス現象による体温上昇、さらにはそれに伴うシステムバイオロジー(発汗、血流の変化などの熱調整機能)を統合的に取り扱う技術を有しており、サウナなど特殊な温熱環境まで有効性を確認した唯一の技術を有しています。3時間後のリスク評価を行うには、通常ワークステーションを用いた場合、解析には12時間を要していました。

(2) 東北大学サイバーサイエンスセンターは全国共同利用施設として、高メモリバンド幅と高いコア性能を有するベクトル並列型スーパーコンピュータを整備・運用し、ベクトル処理および並列処理を高度に融合させたメモリ性能制約型アプリケーションの高度化、高速化に関する計算科学者(ユーザ)と計算機科学者の学際的共同研究を積極的に推進しています。今回は、この取り組みを通して当該コードにベクトル化、並列化を施すことでSX-ACEの高い演算性能を引き出すことに成功しています。

(3) 日本気象協会では、これまでにもさまざまなメディアや気象情報提供を通して、広く一般の方に向けた熱中症予防に関する啓発活動を行ってきました。2012年から推進している熱中症予防啓発プロジェクト『熱中症ゼロへ®』では普段は積極的に予防に関する行動をとらない層に向けても、イベントや協賛企業、各種メディアなど日々多くの人が接する媒体を通して、熱中症予防に呼びかけてきました。また、全国のリアルタイムの気象情報や天気予報を提供する日本気象協会の天気予報専門サイト「tenki.jp」では、気象予測情報を活用した地点別の熱中症情報の予測や、熱中症予防に関するコラムなどを公開しています。そこで、共同研究グループで得られた知見をこのような実績のある媒体などを通して広く一般の方に発信することで、開発された技術を有効に活用してもらうプラットホームを提供します。さらに、個人属性を考慮した熱中症リスク評価を提供情報として活用することで、より「他人事にしない」熱中症予防啓発につなげることを目指します。

【新規性】
今回の共同研究では、平田准教授らが開発してきたマルチフィジックスとシステムバイオロジー融合した解析コードを、東北大学が中心となりベクトル化、並列化を同時に施し、スーパーコンピュータSX-ACEに効率的に実装しました。なお、これまでの物理解析とは異なり、ベクトル化には適していないシステムバイオロジーの部分を効率的に実装するよう工夫しています。スーパーコンピュータにおいて64コアを同時に用いた結果、3時間後のリスク評価に要する解析時間は、成人男性で45秒(3歳児は15秒)となりました。
この解析手法に、日本気象協会が提供する気象予報データを入力情報として組み込むことにより、例えば、大規模イベントなどにおける熱中症リスク評価シミュレーションが準リアルタイムで実施できるようになりました。年齢や性別など複数の人体モデル(5体)、さらには熱調整機能のばらつき(各3種類)などの複数のパターンのデータを並列的に処理(64Coreで単一のシミュレーション、同時に2つの解析を実施)した場合、10分以内に大半の人口をカバーした評価が可能となります(下記図は、2014年7月25日東京での評価例)。東北大サイバーサイエンスセンターのスーパーコンピュータでは、最大2048コアの利用が可能であり、さらなる高速化も可能です。
hirata.jpg

【今後の展開】
気象予測情報を組み合わせた新しい熱中症に関する情報提供や熱中症予防を呼びかけるコラムなど、日本気象協会が提供する各種情報として活用いたします。

【この件に関するお問合せ】
国立大学法人名古屋工業大学 
情報工学専攻 准教授 平田晃正 e-mail: ahirata 続けて@nitech.ac.jpを補完してください
広報室 e-mail: pr 続けて@adm.nitech.ac.jpを補完してください

【関連サイト】
東北大学
東北大学サイバーサイエンスセンター
日本気象協会




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